「何もしない」を必死で努めた出産の立ち会い

獣医さんに連絡すると、「とにかく何もするな。まだ5、6時間はかかるだろうから」と言われました。何もするなと言われて、そばにいるのに何もしないのはつらいものですが、できるのは一人でおろおろすることくらい。あかりと馬房にいると、周りの音が何も聞こえなくなって、ただ自分の心臓がバクバクと動く音だけが響いているようでした。
これまで見たことがない苦しい表情のあかりのおなかをさすって数時間が経過したとき、突然あかりが倒れて、羊水が流れ出ました。「あっ、脚が見えてる！」
獣医さんに再び連絡すると、「何もするな、しばらく見ているだけにして。へその緒も切らないで」と、やはり何もしないの指示です。私は、何もしないのに必死です。
「あかり、がんばれ！　あかり！」





自分で産む。産まれたらすぐ立つ。親子ともえらい！

仔馬は、まず前脚を蹄からのぞかせて、次に頭が出てきました。ほっと、ひと安心。脚が膝から出てきたり、後ろ脚から出てきたりするのは危険で、専門家の手助けや処置が要ります。そうなると私の手には負えませんが、いまのところ正常に進んでいます。
「いいぞ、あかり。もうちょっと！」
あかりが横に倒れてから1時間程たったとき、ついに仔馬が産まれました。頭にはまだ羊膜がかかっています。へその緒は、どくんどくんと脈打っています。その様子を見ていたら、ぱったりと脈が止まり、止まったと思ったとたん、仔馬が力強く立ち上がりました。
「すごい！！！」
あかりも立ち上がって、仔馬をていねいに舐めはじめ、体の表面をきれいにしてあげます。いつのまにか、へその緒は自然と切れていました。
「あかり、自分で産んだね！」


あかり、くるみ、勇気、れい。稼げるようになろう

仔馬の名前は、「くるみ」に決まりました。牝馬ですがわんぱくで、人なつっこい性格のようです。あかりには、お母さんが務まるのかなとちょっと心配でしたが、くるみが産まれて2、3日は片時も離さないほど母性を発揮。勇気は、お父さん役をやっています。れいもくるみといっしょに駆け回っていますが、体格差がありすぎて、ときどき戸惑い顔です。
私は毎朝、軽トラに乗って出かけて、6時にごはんを食べさせることから1日を始め、夕方6時まで牧場の仕事に励みます。朝夕、牧場とアパートを行き来するとき、言葉にならない美しい景色がひろがっていることに気づきました。このひと月、景色を見る余裕もなかったようです。そして、いままで何度も見て来た北海道の景色が、いままで以上の輝きを見せてくれることを感じました。
さて、手づくりで始めたこの小さな農場に、どうやって生産性をつけていくかを考え、実行していくことがこれからのテーマです。あかり、くるみ、勇気、れい。稼げるようにがんばろう！

←Back Page

Next Page →

Page Top↑